労災保険は、1人でも労働者を雇用する事業所は事業開始の時点から強制加入が原則となっている(例外:農水産業の事業のうち5人未満の個人経営の事業などは任意適用)。その保険料は全額事業主負担である。
労基法第9条には「労働者とは、職業の種類を問わず、事業場に使用される者で賃金を支払われる者をいう」と規定されている。従って派遣労働者やパートタイマーはもちろん、学生アルバイトもここにいう労働者である。
また、建築関係など個人事業主や中小企業主も一定の要件を満たせば特別加入することができる(労災法第33条~第36条)。
労働災害については、業務遂行性および業務起因性があったかどうかで判断される。『業務遂行性』とは、労働者が労働契約にもとづいて事業主の支配下(指揮命令下)にある状態であり、そのもとで、業務起因性があることによって労働災害であることが認定される。『業務起因性』とは、負傷・疾病・死亡と業務の間に因果関係があったか否かで判断される。例えば、業務中であっても同僚との間で私的なけんかをした場合には業務起因性があるとは認められない。あくまでも業務に起因することがポイントである。
<精神疾患に関する労災認定基準>
うつ病などの場合については、「心理的負荷による精神障害の認定基準」(2011.12)にもとづいて判断される。
その主なポイントは、①心理的負荷評価表(ストレスの強度の評価表)を定めた、
②いじめやセクシュアル・ハラスメントのように出来事が繰り返されるものについては、その開始時からのすべての行為を対象として心理的負荷を評価することにした、
③精神科医の合議による判定を、判断が難しい事案のみに限定したなどの点である。
業務の過重やパワハラや違法な業務を命じられたなど具体的出来事によって、その強度の基準(平成13年(2001年)12月12日付基発第1063号「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準」)が示されている。時間外労働時間の長さにより判断される長期間の過重業務に関しては、発症前1カ月間におおむね100時間、または2カ月間ないし6カ月間にわたって1カ月当たりおおむね80時間を超える時間外労働があるとの状況が認められると、業務と発症の関連性が強いと評価される。
また、上記基準が見直され(令和3年(2021年)9月14日付基発第0914第1号)、上記の時間に至らなかった場合も、これに近い時間外労働を行った場合には、労働時間以外の負荷要因(休日のない連続勤務、勤務間インターバルが短い勤務、その他事業場外における移動を伴う業務、心理的・身体的負荷を伴う業務、等)の状況も十分考慮し、業務と発症との関係が強いと評価できることが明確化された。
労働時間の把握は使用者の義務だが、自己防衛術として、時間管理をしない事業所の場合、普段から自分で手帳やパソコンで出退勤について記録しておくことが必要であるとのアドバイスも有効である。
使用者は、労働者が業務上負傷し、または疾病にかかり療養のために休業している期間とその後30日間は、労働者を解雇できない(労基法第19条1項)。この解雇制限は通勤災害には適用されない。
療養開始後3年を経過しても治らない場合において、労基法第81条にもとづいて打切補償(平均賃金の1,200日分)が支払われたときは、解雇制限は解除される(労基法第19条第1項、第81条)。
なお、療養開始後3年経過した時点で傷病補償年金を受けている場合には3年経過の時点、療養開始後3年以上経過してから傷病補償年金を受けることとなった場合は年金を受けることとなった時点で、上記の打切補償が支払われたものとみなされ、解雇制限は解除される(労災法第19条)。
業務災害、通勤災害により療養し、休業する場合に支給される給付の内容とその手続きをまとめると、次の表のようになる。
区分 | 内容 | 手続 |
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療養補償給付 療養給付 |
傷病の療養を行う場合に支給
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休業補償給付 | 傷病の療養のため労働できず、賃金を受けられない日が4日以上に及ぶ場合、休業等4日目以降、原則として、休業1日について給付基礎日額の60%を支給 | 休業補償給付支給請求書を所轄の労基署長に提出 |
休業特別支給金 | 休業(補償)給付を受ける者に対し、休業1日について給付基礎日額の20%を付加して支給 | 休業補償給付支給請求書を所轄の労基署長に提出 |
労災法上、通勤災害と業務災害は別個のものとされており、保険給付についても内容はほぼ同じであるが名称が異なっている。両者の主な相違点は以下のとおりである。
項目 | 通勤災害 | 業務災害 |
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受療に際しての一部負担金 | あり |
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待期期間中の休業補償義務 | なし | あり |
休業中およびその後30日間の解雇制限 (労基法第19条)の適用(最長3年) |
なし | あり |
年休の要件たる出勤率の算定に当たっての休業期間の取扱い | 出勤とみなす必要なし | 出勤とみなす必要あり |
心の健康問題で休業していた労働者の職場復帰にかかわる相談が増加傾向にある。厚生労働省は、心の健康問題の特性に応じた対応が必要であるとして、医学的に業務に復帰するのに問題がない程度に回復した労働者を対象として「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」というガイドラインを示している。
<第1ステップ>病気休業開始及び休業中のケア |
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<第2ステップ>主治医による職場復帰可能の判断 |
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<第3ステップ>職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成 |
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ア 情報の収集と評価
イ 職場復帰の可否についての判断 ウ 職場復帰支援プランの作成
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<第4ステップ>最終的な職場復帰の決定 |
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<第5ステップ>職場復帰後のフォローアップ |
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出所:厚生労働省、(独)労働者健康安全機構「心の健康問題より休業した労働者の職場復帰支援の手引き(2020年9月改訂)」(https://www.mhlw.go.jp/content/000561013.pdf)を元に連合編集
労基法第19条第1項、第81条
労災法第3条、第19条、第33条~第36条